
自治体の生成AI活用に学ぶ、中小企業の効率化の余地

生成 AI の効果は、「便利そう」という感想で語られがちです。その中で自治体は、何時間減ったかを数字で公開している数少ない領域です。総務省の資料を手がかりに、中小企業、とくに製造業や建設業にとっての意味を考えます。
何が公表されているか

総務省は「自治体における生成AI導入状況」を公表しています(令和7年6月30日版)。検索で確認できた範囲では、生成 AI を導入済みの団体は、都道府県で87.2%、指定都市で90.0%、その他の市区町村で29.9%でした(令和6年度の調査、12月31日時点)。市区町村では、まだ3割ほどにとどまります。
使い方で多いのは、あいさつ文案の作成、議事録の要約、企画書案の作成、メール文案の作成の順です。派手な使い方ではなく、文章を書く仕事が中心です。
時間の数字も出ています。
| 事例 | 内容 | 確認状況 |
|---|---|---|
| 会議録の作成 | 音声の文字起こしと要約が2,800時間から1,400時間へ。50%減の見込み | 総務省の2025年12月の資料で確認。実績ではなく見込み |
| 滋賀県野洲市 | あいさつ文案・メール文案など、文章作成が月190時間から51時間へ。73%減 | 民間サイトの紹介で確認。総務省の資料では未確認 |
野洲市の数字は二次情報なので、公開前に一次資料で確かめる必要があります。会議録の数字も見込みなので、「減った」とは書かずに「減らせる見込み」と読むのが正確です。
自治体の数字が参考になる理由
自治体の数字が参考になるのは、仕事の中身が、文章と会議と書類だからです。これはどこの会社にもある仕事です。議事録、報告書、案内文、メールの下書きは、業種を問わず時間を取られます。
そして、数字を公開しているところが、そもそも珍しいのです。民間企業の「何時間減った」は、たいてい社内にとどまります。自治体の数字は、業務の種類ごとに時間を比べる材料として貴重です。
ただし、時間が減っただけでは、効率化は終わりません。空いた時間を何に使うかで、価値が決まります。私たちはこの空いた時間を Margin(余白)と呼び、導入の最初に使い道を決めておくよう勧めています。
製造業・建設業ではどう読み替えるか
製造業や建設業は、現場の作業そのものを AI に任せにくい業種です。ただ、現場のまわりには、自治体と同じ種類の書類仕事がたくさんあります。
製造業なら、日報、品質記録、不具合の報告書、見積書や仕様書の下書き、社内手順書の整備などです。建設業なら、工事日報、安全書類、打ち合わせの議事録、施主への報告文、見積の説明文があります。どれも型があって量が多く、書く人によって出来がばらつきやすい仕事です。
まずは、文章の下書きと要約のところだけを AI に任せます。内容の確認と判断は人が持ちます。「判断は人、作業は AI」という分け方なら、現場の責任の所在は変わりません。
人手に余裕のない会社ほど、1人が書類に使う時間を少し減らせたときの効き目は大きいはずです。現場に出る時間、お客様と話す時間、若手に教える時間に回せるからです。
数字を見るときの注意
もっとも、自治体の数字をそのまま自社に当てはめることはできません。会議録の数字は見込みですし、野洲市の数字も、どの業務を、どの期間で、誰が数えたのかを確かめないと、比べようがありません。
自社で使うときは、削減率より先に、元の所要時間を見てください。月に190時間かかっていた仕事が51時間になるのと、月に10時間の仕事が3時間になるのとでは、同じ7割減でも意味が違います。効率化の価値は、率ではなく、空いた時間の総量と、その使い道で測るものだと考えています。
もう一つは、品質の確認です。AI が書いた下書きを人が直す時間も、作業時間に含めて数えます。そこを数えないと、導入後の数字が実態よりよく見えてしまいます。
取り組むときの順番
自治体の進め方を、中小企業向けに置き換えると、次の順になると思います。
まず、対象を一つに絞って、今の所要時間を測ります。議事録でも日報でも構いません。次に、AI に任せる範囲と、人が確認する範囲を決めます。そのうえで、減った時間を何に回すかを先に決めておきます。数か月後に、同じ物差しで測り直します。
数字が出せれば、社内の理解も得やすくなり、次の業務へ広げる判断もしやすくなります。測らずに始めると、効果が見えないまま、いつの間にか使われなくなることが多いようです。
最初の一歩に選びたい業務
どの書類から始めるかは、会社ごとに違います。目安は、毎週繰り返していて、書く人が決まっていて、出来上がりの形がほぼ同じものです。製造業なら日報、建設業なら工事日報や打ち合わせの議事録が、これに当てはまることが多いと思います。
逆に、最初は避けたほうがよいものもあります。お客様との契約に関わる文書や、安全に関わる最終判断のように、間違いの影響が大きいものです。こうした文書は、下書きの補助にとどめ、確認は必ず人が行います。自治体も、まずあいさつ文や議事録のような、影響の小さい文章から使い始めています。この順番は、民間でもそのまま使えるはずです。
まとめ
自治体の事例は、効率化の余地が特別な業種だけのものではないことを示しています。会議と書類がある会社なら、同じ形で取り組めます。製造業でも建設業でも、まず書類仕事の1つから、時間を測ることが入り口です。
同じ整理を自社でやってみたい、という方は、まず現状の所要時間の測り方からご相談ください。
出典
- https://www.soumu.go.jp/main_content/001018084.pdf (総務省「自治体における生成AI導入状況」令和7年6月30日版。本文は未取得)
- https://www.soumu.go.jp/main_content/000956953.pdf (総務省「自治体における生成AI導入状況」。導入率と活用例の確認に使用)
- https://www.chisou.go.jp/tiiki/toshisaisei/mini_symposium/20251219/20251219_soumushou_happyousiryou.pdf (総務省の2025年12月の発表資料。会議録の2,800時間から1,400時間の見込み)
- https://webtiger.jp/jichitai-genai/ (民間サイトの紹介記事。野洲市の190時間から51時間)




